先生が語る大人の音楽

先生が音楽について語ります。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

キンクス「ヴィレッジ・グリーン・プリザベーション・ソサエティ」

キンクス/ヴィレッジ・グリーン

このアルバムは、私の愛するレイ・デイヴィス率いるキンクスの最高傑作といわれる「ヴィレッジ・グリーン・プリザベーション・ソサエティ」。このトータル・コンセプト・アルバムの妙に長いタイトル。ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を絶対意識している。

キンクスといえば、"You Really Got Me"。キンクスの代名詞のようなもので、今でもライブのアンコールナンバー。シンプルでカッコいい史上最強のリフ。ボーカルは軽い感じで始まるが、しだいに内的なエネルギーが充満していき、"you really got me, you really got me"と爆発。アバンギャルドなギターソロ。ほんの15秒ほどだが、ツェッペリンのジミー・ペイジが繰り広げる20分のギターソロより内容が濃い。たったの2分10秒。2分10秒の奇跡。

ヴァン・ヘイレンがデビュー・アルバムで "You Really Got Me"を取り上げたほか、プリテンダーズが"Stop Your Sobbing"を、あのボール・ウェラーのジャムが"David Watts"をカバーしている。「俺たちはロックに造詣が深いんだぞ」と言いたげなバンドにより、取り上げられている。

私にとって、最もイングリッシュネスを感じさせるバンドは、ビートルズでもストーンズでもなく、このキンクスと、ピーター・ガブリエル在籍時のジェネシスである。イギリスっぽさを一言で言い表すのはちょっと難しい。キーワードを並べると、ひねくれたアイロニー、霧のかかった小高い丘とヒースの風景、アートスクールの空気、パブのビールのむせる匂いなど。

たとえば、このバンド。"You Really Got Me"が全英ナンバーワンになったら、まったく双子のような曲"All Day And All of the Night"を発表して、けろっとしている。ここで確立した最高に格好のいいキンキーサウンド。キンクスしか出せない格好良さで、これを再生産していれば、一生食うに困らないはずだが、全然違うサウンドを作りだし、ファンを煙に巻く。

このアルバムには収録されていないが、私が一番好きなキンクスの曲は、"Waterloo Sunset"。なんと、ローリングストーンズ誌の歴代ロック名作ソングの25位にランキングされている(You Really Got Meは41位)。ビートルズファンがこの曲を聴けば、爆笑間違いなし。たぶん、こういう経緯だったのではないか?

「いい曲ができたぞ!」「あれ? ビートルズ、ポール・マッカートニーが作るメロディラインに似ているぞ」(たぶん影響を受けちゃった)。普通、それを隠そうとして、ビートルズっぽくないアレンジにするはずだが、天才レイ・デイヴィスは、「ビートルのメロディにはビートルズのサウンドだ!」と思い、まったくビートルズなコーラスをつけたり、曲の展開、アレンジを試みたり。それでも、完成した曲が、なぜかキンクスの曲になっているという不思議。

このヴィレッジ・グリーン。タイトルは、「村の緑を守る会」のことだろう。ダブル・ミーニングになっていて、「みどり村」という特定の村をイメージする仕掛けも作られている。この村の住民の生活が描かれているコンセプトアルバムである。ちなみに、私が持っているCDは、このタイトル曲の対訳で、ヴィレッジ・グリーンを「緑の公園」と訳している。なんというお馬鹿。公園の中に尖った塔の教会があるのかよ! 翻訳者を呼んで3時間ほどお説教したくなった。

このアルバムが発表されたのは1968年。ときは、フラワームーブメント。ラブ・アンド・ピース。反戦、ドラッグ、フリーセックスの時代。ビートルズは、サイケデリックなサージェントペパーズで時代に答えたのに対し、キンクスは、村の緑を守る会。これがキンクスのレイ・デイヴィスのひねくれ者たる所以である。実は、キンクス。最初にアメリカにプロモーションでやってきたとき、酒を飲んでへべれけでステージに上がったり、テレビで暴れたりして、4年間アメリカでの公演活動ができなくなっていた。

ということで、アメリカ進出が難しくなったのが理由かどうかわからないが、とにかくノスタルジーあふれる(後ろ向き)、田園に戻ろう(内向き)なアルバムを作った。なんぜ、ストロベリージャムを守りたまえ、カスタードパイを守りたまえ、地ビールを守る会にクイーンズイングリッシュを守る会、オフィスビル建設反対連盟なのである。しかも、素晴らしいことに、これが全く売れなかった。アメリカでも、そしてなぜか本国イギリスでもランクインすらしなかった。

それがキンクスの最高傑作になっているというのがキンクスらしい。そうなのである。時代に呼応して作られた作品は、時代とともに古びていく。しかし、天才レイ・デイヴィスの詩の中に描かれている世界は、マクドナルドやスターバックス、ウォルマートの侵略を受けて、失われていくというプロセスにあり、今の問題であり続けている。このアルバムは、そういう意味で、永遠の若さを保つ"Ever Green"なアルバムとして魅力を放っている。

キンクスがどれだけ真面目に「緑を守る会」を考えていたかは怪しい。レイ・デイヴィスのことだから、たぶんそういう考え方に対しても、どこか醒めた目で見ていた節もある。しかし、このアルバムの曲の皮肉に満ちた歌詞の隙間から、フォーキーなサウンド、美しいメロディに乗って、イギリスのライフスタイルに対する愛情がこぼれ落ちている。これがこのアルバムの魅力となっている。

キンクスのアルバムは、どれも傑作。特に、「フェイス・トゥ・フェイス」や「サムシング・エルス」「アーサー」など、この時期周辺のアルバムが評判がいいが、2枚あるライブ盤では彼らが屈指のライブパフォーマーであることを確認できるし、見事に売れなかった「スリープウォーカー」や「ミスフィッツ」あたりのアルバムも、今の耳で聴くと、なんで売れなかったのか不思議なくらい素晴らしい。曲としては、"Sunny Afternoon"と"Clluloid Heros"が絶対お勧め。

ゴールデンウィークは、イギリスのどこかにある(どこにでもある)ヴィレッジ・グリーンに向かって旅立とう。孤独で頑固なジョニー・サンダー、お金で買えない愛を売るモニカ、実在するけれども誰も知らないウォルター、意地悪なアナベラたちに会えるかも。

スポンサーサイト

PageTop

ソフト・マシーン「ソフト・マシーンⅢ」

ソフト・マシーン/Ⅲ

このジャケットは、ソフト・マシーンというプログレッシブ・ロック・バンドが1970年代に発表したサード・アルバムである。LPの頃は、2枚組で4曲。つまり、1面に1曲ずつ入っていた。ソフト・マシーンという名前は、20世紀を代表する作家ウィリアム・バロウズの同名小説からとった。女性のアンドロイドのことらしい。

プログレッシブ・ロックというのは、極めてヨーロッパ的な音楽であるという話は、以前書いた。その中で、このソフト・マシーンというバンドの音楽=カンタベリー・ミュージックは、最もイングリッシュネスを感じさせるサウンドである。

ロンドンから70キロほど離れた地方都市カンタベリー。そこにあるグラマースクールに在籍していた若者たちが、ウェリントン・ハウス(18世紀の邸宅)という下宿屋を溜まり場として、1960年前後セッションを重ねていた。この邸宅には、地元の青年たちに加えて、世界中からヒッピーたちも流れついていた。

そういった交流の中から生まれたのが、ソフト・マシーンとキャラバンというカンタベリーミュージックの二大バンドである。カンタベリー・ミュージックとは何であるのかを一言で表現するのは難しいが、クラシックの要素よりはジャズの要素が強く、即興中心の演奏が繰り広げられる。メロディが不自然で、コードとリズムが複雑怪奇なところもある。

ソフト・マシーンのオリジナル・メンバーは、ロバート・ワイアット、デヴィット・アレン、ケヴィン・エアーズ、マイク・ラトリッジというメンツ。その後、激しいメンバーチェンジを繰り返していき、オリジナル・メンバーは一人抜け、二人抜けしていく。最後には、オリジナルメンバーがいなくなって、名前だけ残る。

私のアイドルであるロバート・ワイアットは、4枚目まで在籍していた。ワイアットは、ドラムスを叩いて、ヴォーカルをとっていたが、4枚目でついにヴォーカル曲はなくなった。そして、ある日他のメンバーからクビを言い渡される。ヴォーカルはいらないし、ドラムスはもっと技巧的に演奏できる人が欲しかったらしい。

このアルバムの1曲目"Facelift"は、当時のライブにおいても人気を博していた曲。クリムゾンの21世紀の精神異常者のような変拍子。キーボードとベースを中心に、轟音をかましつつ、混沌とした雑音を芸術の域に高めていく。

このアルバムのハイライトは、3曲目に収められている"Moon in June"。カンタベリー・ミュージックの最高傑作と言ってしまおう。このアルバムで唯一ヴォーカルが入る曲である。一言で言うと「せつない」。ロバート・ワイアットの声は、後に「神様の声」と呼ばれるほど、独特。別にジョニー・キャッシュの低音の魅力があるわけでも、フレディ・マーlキュリーのように大きな声量で高音が出るわけでもない。

しかし、癒される声。ちょっと切羽詰まった感じで、青春の甘酸っぱさを漂わせながら、切々と歌い上げる。もうひとつ。おそらくカンタベリー・ミュージックの共通項かもしれないのが、「浮遊感」。重心が上にあるというか、切れが悪いというか。たゆたう感じが心地よい。

このアルバムは、全英チャート18位まで上がり、彼らにとって最大のヒットとなる。バンド脱退後、ワイアットは、ソフト・マシーンと張り合う様な前衛的なファースト・ソロ・アルバムを発表。そのあと、バンド、マッチング・モール(Matching Mole)を結成する。この「そっくりモグラ」というバンド名は、ソフト・マシーンをフランス語におきかえ、その発音を英語にしたものである。つまり、なんとなくソフト・マシーンに未練があるような感じ。ここには、"Caroline"というポップな名曲が収録されている。

ところが、1973年6月に、ワイアットに悲劇が襲う。酔っ払って階段から落下。脊髄を損傷してしまい、以後、ドラムスを叩けなくなったばかりではなく、車いす生活を余儀なくされる。その中で発表された「ロックボトム」というソロアルバムは、彼の最高傑作とされている。特に、"Sea Song"は、切ないヴォーカルが印象的な名曲である。

途中、奥さんの影響もあってか、思いっきり左翼思想に染まったアルバムを発表したりもしたが、1990年代以降、「シュリープ」や「クックーランド」といった名作をコンスタントに発表している。これらのアルバムは、ちょっと神経が疲れたとき、イライラしているときに、ラックから取り出して聴くことにしている。

私にとって、"Moon in June"は、ヴォーカル部分・演奏部分・メロディ・雰囲気から言って、1曲単位でみた場合、オールタイムベスト10に入るくらい好きな曲である。大観衆の前で、ロックバンドのヴォーカルを私がやっており、この曲を歌う夢を見たことがある。

PageTop
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。