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セロニアス・モンク「ソロ・オン・ヴォーグ」

セロニアス・モンク/ソロ・オン・ヴォーグ

このジャケットは、ジャズ・ピアニストの最高峰のひとり、セロニアス・モンクのピアノ・ソロ・アルバムである。私は、ビル・エバンスと並んで、このモンクの不思議なピアノを最も愛している。

彼は、マイルス・デイヴィスに影響を及ぼした数少ないジャズ・プレーヤーである。マイルスに最初に絶大な影響を及ぼしたのは、チャーリー・パーカー。ビ・バップという過激な音楽スタイルにマイルスを誘(いざな)い、マイルスをして「これじゃ体が持たない」と、ビ・バップの限界を認識させ、より様式化されたハード・バップに向かわせる。彼の死に直面したマイルスは、麻薬と縁を切る。

それから、デューク・エリントン。彼は、自分のジャズ・オーケストラを率いて、強力なリーダーシップによって真のジャズを創造した。彼の死を知ったマイルスが「ゲット・アップ・ウィズ・イット」に残した"He Loved Him Madly"は、至高の名演。それから、ビル・エヴァンス。ここでも紹介した「カインド・オブ・ブルー」の時期。彼は、マイルスに、ラヴェルやラフマニノフを教えるとともに、静寂・沈黙がもつ意味を伝えたように思える。

そして、このモンク。彼こそが、マイルスの音楽人生の最もコアな部分に影響を及ぼしたのではないかと密かに思っている。マイルスが影響を受けたのは、時間としてはほんの一瞬。時期は、1954年12月24日。この日は、マイルスとモンクの意見が真っ向から対立。ピリピリした雰囲気でレコーディングされた「喧嘩セッション」の日として知られる。

その最も重要な成果が「バグズ・グルーブ」というマイルス名義のアルバムに残されている。このタイトル曲(テイク1と2があるがともに同レベルの名演)におけるモンクのピアノソロは、彼のベストパフォーマンスといっていいくらいの素晴らしい出来。しかし、重要のは、マイルスのソロの部分。マイルスは、モンクに「俺がソロとるときには、調子が狂うのでピアノのバッキングをするな」と要求する。だから、マイルスの流麗なソロのバックには、モンクの音がしない。でも、「あら、不思議」。そこには、モンクの匂いが濃厚に漂っている。

実は、これがモンクからマイルスが学んだ秘密なのではないか。以後、マイルスは、カリスマ性をもって他のメンバーの演奏を支配し、自分が演奏していない時間、あるいは自分がバンドに加わっていない演奏にまで、自分の存在を意識させ、「臨在」する。オーケストラの指揮者は、自分では音を出さないが、オーケストラの演奏を支配する。それと同じように、プレーヤーの個人技で成立していたジャスを、マイルスは、サウンド面で完全に支配しようとした。

だから、マイルスは、モンクと現場で言い合ったのかもしれないが、(口が裂けても言わなかっただろうが)、モンクを生涯リスペクトしていたのではないか。マイルスは、その後、モンクの名曲"Round About Midnight"を大手レーベルに移籍後の初の大切なアルバムのタイトル曲として取り上げ、ライブでも演奏し続ける。

モンクは、チャーリー・パーカーとともにビ・バップの運動をけん引した。ほとんどのジャズ・ピアニストに影響を与えている巨人パド・パウエルにビ・バップのイディオム(語法)を教えたのも、モンクである。しかし、彼は、このようなテクニックを競うようなアリーナからは、しだいに距離を置くようになり、やがて「これがジャズ?」というようなヘタウマ演奏をすることになる。

モンクのピアノは、へたっぴー説がある。たしかに、このアルバムに収録された彼の代表曲"Round About Midnight"を聞いても、引っかかる、引っかかる。まず、メロディ。彼は、考えながら、一音一音選んで引く。だから、次の音が出てくるのに時間がかかり、音の流れが止まる。その試行錯誤のプロセスは、アルバム「セロニアス・ヒムセルフ」のボーナストラックで聴くことができる。

次に、和音。必ず1音ほど「なんでこの音が混じる?」という音が入って、戸惑う。リズムも止まる。気まぐれに、テンポが速くなったり遅くなったり、拍子が変わったり。絶対モンク相手に指揮棒を振ることはできない。しかし、これは、いわゆる決まり文句でジャズのアドリブを続けマンネリ化するのを防ごうという確固たる意志の表れであり、けっして下手なわけではない。

こういうスタイルなので、モンクを聴くにはソロに限ると言われており、私も半分同意するが、トリオの演奏やカルテット・クインテットの演奏にも「ブリリアント・コーナーズ」「ミソテリオーソ」などすごいアルバムがたくさんある。「ブリリアント・コーナーズ」では、あのソニー・ロリンズが参加しているが、完全にモンクの色に染まっている。全プレーヤーがモンク化して、モンクの世界を表現している。

モンクは、よき師でもあった。麻薬でヘロヘロになりマイルスのバンドを首になったジョン・コルトレーンの面倒を見たのもモンクだった。二人の演奏が正規にスタジオ録音されていないのが残念だが、壮絶なライブ演奏がコルトレーン夫人によるカセットテープ録音で残っている。ひどいテープヒスの向こうから、ふたりの魂の交流が聞こえてくる。モンクのもとで立ち直ったコルトレーンがマイルスのバンドに舞い戻り大活躍、そのあと、ジャズ道をばく進していくのは周知のとおり。

モンクは、ジャズ界屈指のジャズ・スタンダード作曲家として、歴史に名を刻んでいる。"Round About Midnight", "Well You Needn't", "Straight No Chaser", "Off Miner"などなど。どれも不思議なメロディ。モンク以外には絶対に作り出せないメロディである。特に、"Round About Midnight"のメロディには歌詞が付けられてスタンダード化している。

この曲をハミングしてみればわかるが、すごく無理な音の跳躍があるにもかかわらず、自然で素敵なメロディになっている。この曲ほど、「深夜」の雰囲気、冷たい空気、闇と静寂を見事に表現したメロディを私は知らない。それを最も味わうことができるのは、ギル・エヴァンスが編曲してマイルスが演奏したヴァージョンである。そこには、モンクは参加していないが、モンクの気配が濃厚に漂っている。

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スタン・ゲッツ「スタン・ゲッツ・プレイズ」

スタン・ゲッツ/スタン・ゲッツ・プレイズ

なかなか素敵なジャケットでしょう? アート・ペッパーに並ぶ白人テナーサックス奏者の最高峰、スタン・ゲッツの古いアルバムである。

私がサックスの音を聞いて、最も「ジャズらしいなあ」と思うのは、コルトレーンとかソニー・ロリンズといったいわゆるジャズ・ジャイアントの演奏ではなく、スタン・ゲッツの演奏なのである。ケニー・ドーハムの「静かなるケニー」とともに、ラックの見つけやすいところに置いてあり、ちょくちょく取り出しては聴き続けているお気に入りのアルバム。

ジャズ・サックスの奏法には、大きく2つのタイプがあると言われる。ひとつは、コールマン・ホーキンス。太い、しわがれた大きな音で、ヴィブラートを聴かせて、たっぷりと歌い上げる感じ。ほとんどのサックス奏者は、ホーキンスのスタイルの影響を受けていると言ってよい。

もうひとつの流派がレスター・ヤング。かの名歌手ビリー・ホリデイの彼氏だった人で、「ビリー・アンド・レスター」というアルバムで、幸せいっぱいのふたりの最盛期の演奏が聴ける。レスター・ヤングの演奏は、少し線は細いけれども、澄んだ音で、ヴィブラーとをあまりきかせず、スイングさせる。

スタン・ゲッツは、もちろんホーキンスの影響も受けているが、レスター・ヤングの影響の方が強い。ゲッツは、瞬間的に音を紡いて、メロディアスなアドリブを展開する能力においては、ソニー・ロリンズと双壁なのではないかと思う。しかも、このアルバムのように、ほんの3分程度の曲の中に、極上のメロディを滑り込ませることができる。コルトレーンのように、1時間もかけて、ブリブリと暑苦しいソロを展開するのではなく(実はそれが快感だったりするのだが)、短い時間に印象的なメロディを繰り出すことができた。

だから、彼のアルバムに駄作はない。ボサノバを演奏した「ゲッツ・アンド・ジルベルト」というアルバムがあるが、「イネパナの娘」といった曲で聴かせる極上のソロは、リゾートの海岸、青い空にカラフルなパラソルを映像として現前させ、さらに肌に凍てつくような日差しとそよ風、鼻には潮の香りを感じさせるといった具合である。

最近、よく聴くのは、晩年の「アニバーサリー」というアルバムである。1曲が10分前後あり、たっぷりと彼のソロが堪能できる。ここで気づいたのだが、彼のアドリブは、長い時間展開されていても、全然飽きず、「チョー気持ちがいい」のある。サックスの音が惚れ惚れするほどキレイで、メロディの流れを聴いているだけで幸せな気分。まあ、一言で言ってしまえばウマイのである。

そして、秘かに最高傑作じゃないかと思っているのが、死の直前に録音され遺作となった「ピープル・タイム」というアルバムである。「あーあ。誰にも教えたくない大切なアルバムを教えてしまった。」という感じのアルバム。ピアニストのケニー・バロンとのデュエット。つまり、ほとんどのテーマメロディをスタン・ゲッツが吹き、アドリブを展開している。このときには、かなり体調を崩していたそうだが、CDを聴く限り、あと100年は生きそうな勢いである。

ジャズを聴くときには、「ジャズの空気」を大切にしたい。立体的にサウンドが立ち上がり、本物のジャズでなければ形成されない空気を作っていく。矛盾するようだが、ムードジャズには、ジャズのムードは作れない。ジャズの音楽的な進歩にはあんまり貢献しなかったのかもしれないが、私にとって最もジャズマンらしいジャズマンは、スタン・ゲッツである。

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