先生が語る大人の音楽

先生が音楽について語ります。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

フランク・ザッパ「シーク・ヤブーティ」

フランク・ザッパ/シーク・ヤブーティ
この怪しい面構えのオヤジは、フランク・ザッパ。知る人ぞ知る、天才音楽家。ロック・マニアの試金石。一度はまったら抜け出せないアリ地獄のような音楽を残した男である。

「大ザッパ論」という分厚い書物が出ているほど、音楽評論家・マニアの議論・ウンチクの対象になっているにもかかわらず、彼くらい、つかみどころがないアーティストはいないのではないか。

たまたま、本人の顔がよくわかるという理由で、「シーク・ヤブーティ」というアルバムを選んでみたが、どの作品が代表作かと、ファン20人くらいに聞いたら、たぶん18作品くらい並ぶだろう。53歳で亡くなるまで、50作くらいの作品を残しているが、代表作がなんだかわからない。

もうひとつ残念なのは、代表的なヒット曲がないということである。ここでも紹介した変人トッド・ラングレンには”I Saw the Light"という必殺の名曲があるが、ザッパは結局大ヒット曲を生むことがなかった。たぶんヒットチャートに関心がなかったのだろう。

とにかく、日本でのザッパのイメージは、「訳がわかんないヤツ」といったところではないか。その責任の一端は、たぶんレコード会社に入り込んで社員として生息するザッパマニアが、ザッパの精神を表現しようと勝手な思い込みで付けた変態的なアルバムの日本語タイトルにある。

たとえば、
Weasels Ripped My Flesh (イタチたちが私の肉を引きちぎった)が、「いたち野郎」
Ship Arriving too Late to Save a Drowning Witch(到着するのが遅すぎて溺れている魔女を救えなかった船)が、なぜか「フランク・ザッパの○△□」
まあ、One Size Fits All を「万有同サイズの法則」というのは、結構イケていると思うが。

もう一つの原因は、たぶんデビュー作、Mothers of Invention名義の「フリークアウト!」にあると思う。このアルバムは、1966年、つまりビートルズの「サージェント・ペパーズ」の2年前に発表されたトータル・コンセプトアルバムで、前衛的なエッセンスがたくさん詰め込まれた傑作として名高い。いわゆる歴史的な名盤というもので、よくロックの名盤ガイドに載っている。ところが、はっきりいって、ロックファンがきいても、ちっとも面白くない。ところどころ「当時としては凄いな」と思わせるところがあるが、やっぱり最後の2曲は、冗長で退屈である。

私も、この作品を一番最初に聞いてしまった被害者である。「ザッパ=わからん」と感じて、ずっと避けてきて、だいぶ回り道をしてしまった。おそらく、ロックファンがアルバムとして最初に聞くといいのは、「ホット・ラッツ」か「ワン・ザイズ・フィッツ・オール」であろう。

こういった作品を聴けばわかるが、バンドの演奏テクニックが並はずれている。何も難しいことを考えずに、演奏の素晴らしさに酔いしれてしまおう。本人のギターも凄いが、彼が超厳しいオーディションで選び抜いたアーティストたちの演奏、その一糸乱れぬアンサンブルにはため息が出る。

ザッパ作品を分かりにくくしているのは、彼の音楽の幅の異常な広さにも原因がある。ロック・フォークはもとより、ブルース、ファンク、ジャズ(フュージョン)、ドゥーワップ(彼の最も好きな音楽かもしれない)、アラブをはじめとする民族音楽、そしてクラシックの現代音楽(一流の作曲家として認められていた)などなど。すべての音楽的要素をブラックホールのように吸いこんで、ザッパの音楽として宇宙に放出する。

もうひとつ、日本人に分かりにくいのは、独特のユーモア。エロティックな歌詞、そして日本でいえばコミックバンドのような演奏上のフェイクや物まね。こういった要素で、彼はライブに足を運んでくれた観客を喜ばせていた。

1曲だけ、ザッパの真髄を理解する「とっかかり」となる演奏を紹介しよう。「The Best Band You Never Heard in Your Live」という2枚組ライブ盤の最後に納められた"Stairway to Heaven"である。そう。ツェッペリンの代表作。いや、すべてのロック曲の頂点に君臨するといってもいい超名曲を、ザッパは、ライブのラストで演奏している。

なんと、レゲエのリズムで。ここでまず「くすっ」と来るが、まだまだ序の口。歌詞に合わせて、たとえば「雷鳥がさえずる」という部分では、ピーチク・パーチクと笛で効果音。「笑い声がこだまする」というくだりでは、みんなでキャッキャと笑い声をあげる。そう。みんな薄々感じていたはず。だが、名曲を前にして言えない事実。この曲。始まって3-4分くらいは、ちょっと退屈なのである。だから、退屈しないように、いろいろ仕掛けて楽しませてくれる。

そして、ようやく間奏へ。どうするのかと思ったら、ジミー・ペイジのギターソロの部分を採譜して、そのままのメロディをサックス・トランペットなどのブラスで完全コピー。メロディーの美しさを際立たせて盛り上げる。

間奏後のコーダ。「あの」ボーカルの絶唱は? 当然のように、ロバート・プラントの物まね。同じようにまじめにドラマチックに絶叫する。「なるほどね、いい部分はそのまま演奏するんだぁ」と思ううちに、感動のエンディングへ。ところが、最後の最後で、「スッチャンチャン」とおちゃらけて、みんなはコケル。そう。クレージー・キャッツと植木等のギャグのパターンとほとんど同じ。

このギャグを高度な演奏力で、すべてのテクニックを注ぎ込んで全力で行うのである。手抜きはなし。ちなみにこのアルバムには、ジミヘンの名曲"Purple Haze"、クリームの名曲"Sunshine of Your Love"もカバーされている。聴きたくなったでしょう?

単純なアメリカ人は、ライブで単純にそういったエンターテイメントを楽しんでいたに違いない。しかし、そこには、ザッパの観客に対する冷徹な視線「ほーら、こんな音楽が好きなんだろ」といった上から目線を感じる。わかってくると、その先にもうひとつ先に底意地の悪い仕掛けがあって、その先にもうひとつ罠がしかけられていて。といったマトリョーシカ状態になっているのが、ザッパの音楽である。

というように、ザッパの音楽は、奥が深い。奥が深いから飽きない。いろいろな音楽体験をして、ザッパに戻る。そうすると、必ず新しい発見がある。私にとっては、「柱の傷は一昨年の5月5日の背比べ」の柱の機能を果たしている。

彼は、53歳という若さで亡くなったが、もしも70歳を過ぎたら、どんな音楽を演奏していたのだろうか。きっとアルバムの数は、100枚をゆうに超えていたに違いない。
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。